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本:「わたしのせいじゃない」レイフ・クリスチャンソン著

2018/02/21(水)

シリーズ「あなたへ」6 
「わたしのせいじゃない〜せきにんについて〜」
レイフ・クリスチャンソン:文
にもんじ・まさあき:訳
ディック・ステンベリ:絵
 
※注:この記事はネタバレする内容を含んでいます。
 
スウェーデンの作家、レイフ・クリスチャンソンが書いた童話シリーズ「あなたへ」全15巻の6巻目。著者は社会科教師から教育長になり、退任してから作家に転向した人。このシリーズは彼の代表作で15点の作品はロングセラーを続けている。
 
5分もかからずに読み終わってしまう薄い絵本だけど、そこに込められたメッセージは一般的な「子ども向け」のレベルを越えて、大人が読んでもいいぐらいの内容だ。いや、もしかしたら、大人が直視すべきことから目を背け続けるからこそ、まだ柔軟性のある子ども向けの絵本として描かれたのかもしれない。
 
小学生ぐらいの子が泣いている。その後ろに十数人の子どもたちの顔が描かれている。子どもたちが1人ずつ出て来て、それぞれの言い分を述べていく。言い分というのは一人の子が泣いていることについて自分がいかに責任を負っていないか、つまり「わたしのせいじゃない」理由のことだ。
 
その理由をざっと列挙してみる
・最初から居合わせたわけじゃないからいきさつがよくわからない
・真相を知ってるけど、とにかく自分のせいじゃない
・大勢でやってたから自分一人では止められなかった
・自分は少ししかやっていない
・始めたのは自分じゃない
・ほかの子と違ってふつうじゃないからその子が悪い
・先生にいいつければいい
・おとなしいからいることを忘れてた
・みんながやっていたから
 
こうした言い訳が一通り出そろったところで、次からモノクロの写真が続く。写真の内容はいずれも現代社会の大人たちが直面している大問題である。原爆のキノコ雲、飢饉、戦場で血のシミのついた幼児を抱く兵士、重油を被った鳥、見渡す限りのゴミ、ライフルを持って得意げな少年ゲリラ。
  
人の無責任さというものが、小さな子どもでも大人でも、集団の規模の大小にも関係なく、悲劇の根源にあることを暗示している。子ども向けの絵本で人の心の暗部を描くことはあまりないような気がする。身もフタもないというか、虚飾というものが一切ない直球。子どもに読ませたらどう反応するか見てみたい。

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