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ある日のバスから 吉田阿純

2018/01/25(木)
よくバスに乗る。
ある日、バスの中で中学生くらいの男の子とお父さんが並んで座り、話をしているのを、何の気なしに眺めていた。穏やかで楽しそうな空気が、とっても心地よくて…
 
途中のバス停で、初老の外国人のご夫婦が乗ってきた。
すると男の子が、迷わずさっと席を譲った。
奥さんが笑顔でお礼を言うと、お父さんもすぐに席を立ち、今まで父子が座っていたところに、ご夫婦が座った。
 
しばらくして、赤ちゃんを抱いた若いお母さんが乗ってきた。
先ほどの旦那さんの方が席を立ち、そこに赤ちゃんとお母さんが腰かけた。
 
次のバス停ではお婆さんが乗ってきて、こんどは奥さんがどうぞどうぞと席を譲る…
 
そんなやり取りがしばらく続いて、周囲の人たちも思わず微笑んでいる。いったい何組の人たちがそのバスで席を譲りあっただろう。混雑しているにもかかわらず、バスの中は、明るい陽だまりのような空気で満たされていた。
気がつけば、最初の少年とお父さんはもういない。
彼らはきっと、自分たちがそんなあたたかな連鎖を生み出したことにも気づかず、楽しげにバスを降りて行ったにちがいない。席を譲られたり譲ったりしていた人たちも、自分がそんなやさしさのリレーのメンバーだったとは、知らなかっただろう。
 
ふと思う。今日誰かにもらう微笑みは、そんな風に、人から人を伝って、はるか遠くから私に届けられたものなのかもしれない。ここからまた、他の誰かへと手渡されるために。
優しさをいただいたら、引き出しの奥にしまいこんではいけないんだなぁ…
 
寒波が来ていますね。
みなさま、くれぐれもお気をつけて、今日もよき一日をお過ごしください。

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