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世界平和なう:クレーマーの憂鬱

2018/06/26(火)
横須賀に三笠公園というのがある。ここに日露戦争でバルチック艦隊を破り、日本の勝利を決定づけたと言われる戦艦・三笠が展示されていて見学できるようになっている。しかし名前がダサいなぁ。世界三大記念艦の一つだというけど、そんな言い方が有るのさえ知らなかった非国民の私です。世界三大ガッカリなら知ってる。ブリュッセルの小便小僧、コペンハーゲンの人魚姫、マレーシアのマーライオンだ。それはまあどうでもいい話だ。
 
その日は113回目の日本海海戦記念式典(毎年こんなことやって…)があるとのことで白い制服を着た海上自衛隊の関係者や黒塗りの車が公園に出入りしていた。砂場や遊具がある一角で友達と子どもを遊ばせていたら、そのすぐ傍らでお尻をこちらに向けてアイドリングしている黒塗りの車が7台。まるで嫌がらせと見紛うような配置だ。友達から「あれはひどいよね」と言われて、ぼくの中で何かがムクムクと起き出した。ちょっと尊大なウルトラマンみたいな奴が。
その中の一台の窓をノックしたら年配の自衛官が顔を出した。
「後ろ、子ども達の遊び場なの、わかりますよね?」
「…あ、はい」
「なんでわざわざ子どもたちの方に向けて排気ガス出してるんですか?」
「…」
「お偉いさんの送迎があって待機してるんですよね?」
「そうです」
「でも、公園にいる市民にとってお偉いさんのお迎えとか関係ないんですよ。どうしてもエンジンを吹かしてここに待機してないといけないんですか?」
「すみません。」
すぐ移動してくれた。なにしろ広い公園で停車場所は他にいくらでもあったのだ。こんなやりとりを一台ずつ順番にやっていって移動してもらった。そんな様子を見て率先して移動する自衛官はいなかった。
最後に声をかけた相手は中でもひと際若い自衛官だった。
「後ろ、子ども達の遊び場なのわかりますか?」
「…はい。」
「ここでアイドリングしてること、なんとも思わないんですか?」
「ここで待機するようにとの命令だったので。」
「わかりますよ。上からの命令が絶対の組織だから。あなたの任務はお偉いさんが帰る時に送っていくことでしょう?」
「ええ。」
「TPOってあるじゃないですか。後ろは小さい子どもたちの遊び場なんだから場所を変えてもいいわけでしょう?送迎に差し支えないんだから。そういうことは考えないんですか?」
「…考えないですね。命令なんで。」
この時の開き直った顔ときたら、もう。「ふてぶてしい顔」の見本としてデスマスクみたいなのをつくって大阪民俗学博物館に展示したいぐらいの顔だった。
「(苦笑)考えない?!あなたね、奴隷じゃないんだからたまには考えた方がいいよ。あなたみたいな人がいるからアメフトの危険タックル事件みたいな…」
「呼ばれたんで、もう出します。」
ぼくの話を遮るように急発進していった。
結局、最後の一台には声をかけなかった。文句を言っていたら気が滅入ってきてどうでもよくなってしまったのだ。振り返ってみれば、多分ぼくは「自分は相手が受け入れて当然の正当なクレームを伝えている」という傲慢な気を発していたからだと思う。そう、“オラオラしていた”のだ。ついでに言えば、自分の文句一つで相手がすぐに車を移動してくれるのが少し気持ちよかった。大袈裟かもしれないけれど、これが権力者の快感なのかもしれない。
 
人は相手の上に立って自己中心的な気を放つ時、まず自分自身を傷つける。
親が子の粗相をなじる時、
監督や教師が指導の名の下に過剰に教え子を従える時、
上司が部下の不手際を笠に着て責め立てる時、
討論で相手をこれ見よがしに論破する時など、日常的にそれは起こっている。あまりに日常茶飯事なので周りから問題視すらされないことも多いし、本人も気づかない。立場が上の人間が下の人間に言う事をきかせるのは“世間の自然態”だから。でもそれは自分も相手も傷つけることだ。
 
どんな時でも波風を立てない方がいいなんて思わないけれど、言い方と言う時の心持ちというのがあるはずだ。自分の気持ちを注意深く観察して抑えながら、どうすれば相手のためになるかと思いつつ伝えていたなら、後でそんなにモヤモヤすることはなかったかもしれない。
 
“人のため”を切らさなければ“自分のため”は出て来られない。“世間の自然態”でいれば“自分のため”が顔を出す。エゴは常に顔を出す機会を伺っている。本人にさえわかりにくいように“正しさ”で偽装して。

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