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世界平和なう:バストリテラシー

2019/01/21(月)
友達のKは、思春期に胸が膨らみかけてきた頃、母親に呼ばれた。
 
「なに?」
 
「上だけ全部脱ぎなさい」
 
まだ純朴なKは言われるまま上半身裸になった。
 
「どうしたの?」
 
母は、「そろそろチェックしないといけないから」と言うなり、指でKの胸を突いた。
 
「痛い?」
 
「・・・平気」
 
「ここは?」
 
「強く押すと痛い」
 
こんなやりとりが繰り返された。
 
「一体何をチェックしてるの?」
 
「胸の大きい女は頭が悪いから。もしそういう兆候があるなら早く見つけて手を打たないと。」
Kはそれを真に受けた。
なぜ医師でもない母にその“兆候”がわかるのか、また、どうやって“手を打つ”つもりなのか、という疑念は抱かなかった。母は常に正しい、と思わされてきたからだ。
  
だから小さい頃爪を切られる時にやたらと深爪にされていたのも、母の機嫌を損ねた折、夜、裸で外に立たされていたのも、自分宛の手紙を全部読まれることにも納得こそしていなかったけれど、耐えてきた。余談だけど、彼女は友達との手紙に暗号を使っていた。スパイのゾルゲだって小中学生の頃は暗号文なんか使っていなかっただろうに。  
  
その母の教えを受けてから数年間、胸が小さくて勉強ができない女性には「相当怠けたんだな」と蔑み、胸が大きくて勉強ができる女性には「人一倍の努力をしたんだな」と感心していたのだと言う。
 
もしかしてそれってKのお母さんのバストが小さくて僻んだが故の偏見なんじゃないかなと思った。

「で、お母さんのバストサイズはどうなの?」 
 
「・・・ふつう」
 
親は子に良いこと、正しいことを教えようとするけれど、それは常に自分の限られた経験、知識、感覚に裏打ちされた“良いこと”や“正しいこと”に過ぎない。
「胸が大きい女性は頭が悪い」という俗説は何度も聞いたことがあるけど、もちろん、何か確かな根拠があってのことじゃないだろう。そんな世迷言を信じている人がたくさんいるとは思えないし、胸の大きい女性からしたら全く失礼極まりない話だ。もし、ぼくが胸の大きい女性だったら、そんな人の顔を胸に押し付けて窒息させてしまいたくなるだろう。・・・あ、ダメだ。なんかこの発想がすでにバカっぽい。

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