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世界平和なう:誰でもいいからわかってほしかった

2018/06/13(水)
【ざっくり言うと】
・新幹線車内での無差別殺傷事件から世界中でくり返される自殺願望→無差別殺傷について考えた
・「(殺すのは)誰でもよかった」は「誰でもいいから死にたくなるほどの痛みをわかってほしかった」というメッセージ
・加害者個人に罪を着せて非難するのではなく、その凶行を起こすに至った背景を思い、酷薄な社会の一員として反省したい
・善も悪も人との関わりの中で育ち、世代を超えて伝わり巡る。慈悲深い関わりが増えることを願い、自分もそうありたい

◎誰でもいいからわかってほしかった
新幹線車内での無差別殺傷事件を知ってため息をついた。生きることに絶望し、死を願う人が自分の痛みへの共感を求める最後の叫びがこうした事件を生むように思えてならない。こうした事件の犯人が決まって言う「(殺すのは)誰でもよかった」は「誰でもいいから誰かにこの死に至るほどの痛みをわかってほしかった」と言い換えてもいいのではないだろうか。

もちろんその伝え方は、理性的に考えれば、稚拙で不器用で迷惑千万なやり方ではあるけれど、無差別殺人を起こすような心理状態の人はみんな心神喪失状態のようなものだ。だからそれを理性的な立場から批判することに意味はない。極限まで思い詰められる前に誰かが彼らの痛み、苦しみに気づき、その過酷な生い立ちと苦悩について、「大変だったんだね」とか「それは辛かったね」と一声かけ深く寄り添えるような関係が築けていたなら、あるいは別の可能性だってあったはずだ。

行為自体はもちろん憎むべき罪であり、犠牲者、被害者の方やご遺族、ご家族の心身の痛みは想像しきれない。とはいえ、犯人を厳罰に処しても繰り返し同様の犯罪が起こることからわかるように、それらが生まれてくる土壌としての社会や冷たい人間関係への反省がもう少し叫ばれてもいいように思う。つまり、加害者個人に責任を100%押し付けるのではなく、社会の一員である自分も含めた全体の問題として考えるということ。
 
中学生で不登校を理由に親との折り合いが悪くなり、家を出て施設で育ったという加害者の過酷な生い立ちを知るにつけ、彼だけに罪を着せて非難するのは酷だと思ってしまう。これからも重い十字架を背負って生きていかなければならない彼に早く人の愛と共感が届くように願う。
◎くり返される人生への絶望からの無差別殺傷
死んでしまいたいほど人生に絶望した人が無差別殺傷を起こす事件はアメリカの銃乱射事件をはじめとして世界中で繰り返し起こっている。
こういう事件があると、ネット上では必ずといっていいほど、
「死にたいなら人を巻き込まないで勝手に死ねばよかったのに」
などという心ないコメントが見られる。
加害者を絶対悪としか見なければそんな気持ちにもなるだろう。けれど、誰だって生まれた時から「人を殺したい」なんて思わない。それは非情な人間社会で人とコミュニケーションをとる中で育ってしまう黒い花なのだ。誰だって好き好んで人に刃物を向けるわけじゃない。本当はみんな幸せになりたいと願ってる。特別な人なんていない。
 
誰にも理解されないと感じながら生きるなんてどれほどつらく寂しいことだろうか。一番最初の、人間への信頼感、自尊心が養われるはずの親との関係でそれが得られなかったであろうことが後に影響したと言えるかもしれない。
◎全ては人から人へと伝わり巡る 
自尊心が得られず、人に対する無慈悲な関わり方を植え付けられたら、以後の人生を人間関係に悩み、強い自己否定感とともに生きてこなければいけなかったのも大いにうなずける。もっとも親も親で自分の意志だけでそのような酷 薄な人間に育ったわけでもないだろう。遡れば自身もそうした扱いを受けて来たのかもしれない。愛も憎しみも薄情も無関心も、全ては人から人へと伝わり世界を巡っていく。あらゆる命は望むと望まざるとに関わらず全てシェアしながら生きている。
 
だから一人の人を通してあらわれた悪や狂気を個人の悪として排除したら、それはその背後にあった無数の悪や非人情に目をつむり、放置するのと同じ事だ。結局それらはまた黒い種となり、別の人を通して繰り返し悪の花を咲かせることになる。そしてまた加害者も被害者も犠牲になる。悪に対する学びが必要な時代なのではないかと思う。悪とは何か、悪はどこにあるのか、どうやって育つのか、どうやってそれを克服し続けることができるのか。犯人を“凶悪な人”として非難するだけの人と、自分の心の中の“正義の人”とも一緒に考え続けたいテーマだ。
 
最後に、彼がこんな凶行に及ばなければいけないほど追いつめられ、不遇の人生を送ったことに心を痛める人も多いと信じたい。温かい言葉かけ、直接的なコミュニケーションが薄れる世の中で、慈悲深く人に接する人が増えることを願う。自分自身もそうありたい。
 
【“凶悪犯”の見方が変わる本の一例】
・「空が青いから白をえらんだのです 奈良少年刑務所詩集」寮美千子・編(最初の本)
・「世界はもっと美しくなる 奈良少年刑務所詩集」寮美千子・編(上の続編)
↑この2冊は単独で読んでも大丈夫です。
・「犯罪精神医学入門〜人はなぜ人を殺せるのか〜」福島章・著(※少し学術的な記述が多いものの、実際の事件をもとに凶悪犯罪に至る過程、加害者の人となりを詳しく解説しています)

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